11.06
最新のESG投資を学ぶ。(第一回)
パリでは「PRI in Person」と呼ばれる、世界各国から1700を超えるPRI署名機関の代表者が参加する総会が開催されました。PRIとは、国連が公表したEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの分野に配慮した投資原則です。投資原則に同意した署名機関と協力し、責任投資原則の6つの原則を実践しています。PRIでは、署名機関がESG要因を投資の意思決定に組み込むための情報等を提供し、支援を行っています。
そしてPRI in Personとは、毎年恒例で行われている三日間に渡るイベントです。専門家による最新のESG問題についてのセッションや、参加者が自分の組織の経験を世界中の仲間と共有する場となっています。注目度が高かったトピックは、SDGsとインパクト投資、そしてその評価についてでした。今回は、PRI in Personで人気のあったセッションを一つ、そして次回の記事で二つ紹介します。
信用リスクと格付けにおけるESG
「信用リスクと格付けにおけるESG」と題したセッションは定員150名程度の会場には200名以上の人が参加しており、注目度の高いセッションでした。
このセッションでは2つの会社のケーススタディを用いて、ESGレーティングを行っている会社、信用格付けを行っている会社、そして投資会社によるそれぞれの格付け、評価に関するパネルディスカッションが行われました。
そのケーススタディでは、以下の2つの会社について議論が行われました。
- 財務面は良いが、ESG面で問題を抱えている会社
- 財務面に問題があるが、ESG面で評価が高い会社
参加者の意見では、1つ目の会社は投資適格という格付けにもかかわらず、高リスクと中リスクが大半を占めていました。
議論の中心となったのは、「ESG格付け」と「信用格付け」では測るものが違うという点です。ESG格付けを行っている会社は、以下の2つの側面からその会社のESGリスクを分析しています。
- ESGリスク要因にどれくらいのエクスポージャー(市場の価格変動のリスクにさらされている度合い)があるか?また、それはその産業内、競合他社と比べてどれくらいか?
- 企業はエクスポージャーをどの程度上手に管理できるのか?
そして、残余部分(unmanaged risk)と呼ばれる、企業の力では対処しきれない部分のリスクを評価してそれをESGレーティングにしています。具体的には、10個のESGリスクのうち、ある企業は6つのESGリスクには対応できるが、残りの4つには対応できない、という場合、6つのリスクには対応できるため、そのESGリスクに関する企業への影響はないか少ないが、対応できない4つのESGリスクは、その企業にどれだけ大きな影響を及ぼすかを分析・評価しています。
一方、信用格付け会社は、ESGリスクがどのように信用格付けに影響するのか、つまり、どのように企業の信用に影響するのかを考えます。そのために挙げられた視点が以下の2つです。
- 企業構造:親会社との経済的、業務的、法律的な繋がりがどれくらいあり、親会社が子会社にどれくらいの影響力があるか?またどのようにして意思決定されるか?
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ESGイシューをoperational(経営)とfinancial(財務)リスクに変換する。
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例:従業員のストライキや地域のプロテストが工場の弊社や生産の停止に与える影響を分析する。さらには、ストライキが政府から発行される営業許可やライセンスなどにも影響する可能性等も考えられる。
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信用格付けでは財務面などでは投資適格にも関わらず、ESGリスクが高いとリスクが高いと評価されるようになり、ますますESGリスクの重要性は高まっています。また、信用格付会社は財務状況と投資活動がその企業のESG・サスティナビリティストーリーと一致することを高く評価します。今後は企業や格付け会社、そして資金提供者にもそれが大切な視点になると考えられます。
次回の記事では、「SDGsを投資戦略に組み込む」、そして「上場市場におけるインパクト投資」について紹介します。