2018
12.10

品質を高めるスターバックスのサスティナビリティ戦略

ESG投資, コーポレートファイナンス

世界90か国に展開する米国大手コーヒーチェーン・スターバックスは、ESG戦略の一環として、米国(2016年5月)と日本(2017年3月)でサステナビリティ債(シニア債格:安定社債)を発行し、約1400億円の資金調達を達成しました。ロイター通信によると日本では850億円の公募を上回る1000億円程度の申し込みがあったようです。
日本市場に上場していない同社が、なぜ日本での調達に踏み切ったのでしょうか?今回は同社が日本で資金調達をした狙いと、戦略について検証します。

ESGとは何か

サステナビリティとは、企業が事業活動を通じて環境や社会・経済に与える影響を考慮し、長期的な企業戦略を立てていく取組みのことで、日本ではCSR(企業の社会的責任)として知られています。近年では企業の長期的な成長のためには、環境・社会・ガバナンスが示す3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まってきており、頭文字をとってESGと呼ばれます。
国家ではSDGs(エス・ディー・ジーズ:接続可能な開発目標。2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年~30年の15年間で達成するために掲げた17項目の目標、具体的な169項目からなる)推進のため、民間企業に協力を呼び掛けています。資金調達の背景を探るスターバックスでは「C.A.F.E.プラクティス」と呼ばれる、厳格な購買ガイドラインの指針を設けています。指針の内容は、労働環境の改善と児童労働の規制をはじめ、土壌侵食や汚染防止などの生物多様性の保全に対する取り組みを含めた、包括的かつ測定可能な基準を満たすことです。同社HPによると、買い付けするコーヒー豆の99%が、C.A.F.E.プラクティスやフェアトレードなどの基準を満たし、倫理的に調達されています。サステナビリティ債発行の決断は、同社の指針を遂行するための調達という背景があるようです。

サステナビリティ債発行の行方

スターバックスは調達資金を、生産者への融資と研究開発センターの設立資金、購入資金に充当すると発表しています。同社が推進する独自基準に準拠していることを第三者機関が検証したコーヒー豆の購入を行なうこと、生産者支援センター及び農業研究開発センターの設立と運営に関する支出すること、同社の5000万ドルのグローバル農業生産者基金を通じたコーヒー豆生産者への融資(新規および借り換え)を行なうことに注力します。コーヒー農園コミュニティへのサポートと気候変動の影響軽減、長期的な作物の安定性と農場の持続可能性の強化が含まれます。本社HPでは社債調達資金が適正基準にあうプロジェクトに全て配分されるまで、その資金配分先について、サステナビリティ債の期間を通して年次のアップデートを発行しています。

0.32パーセントでも日本市場では高付加価値

実際に公募があった内容を確認すると、円建て社債で850億円発行、表面利率は0.372パーセントの7年債、格付はムーディーズ「A2」でS&P「A」となっています。 米国では5億ドル(約540億円)を調達しています。利率だけを見ると、米国での調達の1/8で日本市場の金利の安さを活かした調達と言えます。スターバックスのサステナビリティ債は米国2.45(10年)に対し日本0.372(7年)。10年物の国債を日米比較すると、米国3.068(表面利率・11月19日現在)に対し、日本0.097(同)。対国債で比較すると米国79.8パーセントに対し、日本は3倍以上の配当となります。知名度がある同社が国内市場で初めて調達することに対する期待感と、シニア債としては国内で高水準の配当であること、ESGの観点からプロジェクトがもたらす環境や社会へのポジティブな影響への期待から完売となったこともうなずけます。

真の狙いは特殊関係投資を行なうことによる安定調達

スターバックスは、独自の指針に基づいて生産者からコーヒー豆を買い、融資や支援を行ない事業をしています。言い換えれば、コーヒー生産者やコーヒー豆といった特殊性を持った資産へ投資し、回収することで利益を得ています。資産の特殊性とは、当事者同士の取引のみが有益であるような資産を指します。独自のルールに合う生産方法で作るコーヒー豆は、他者からすればそれほど価値を持たないことになります。
特殊関係投資はホールドアップしてしまう可能性を含みますが、双方にとってのメリットがあります。コーヒー生産者は、融資や支援を受けつつ、生産したコーヒー豆の買い手が決まっており、必要な生産数を予測しやすくなります。スターバックスは、独自の基準に合ったコーヒー豆の安定的な調達を可能にしてくれます。