05.16
債券におけるESG投資、企業に求められているものとは。(第三回)
多くの格付け機関がESG要素を債券の評価に取り入れています。格付け機関はどのようにESG要素を評価しているのか、大手格付け機関「MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)」の評価方法から考えます。
各産業におけるESGリスクと機会
環境・社会・ガバナンスに伴うリスクや機会の大きさは、トレンド(例:資源枯渇、人口変動等)とその企業の産業によって異なります。一般的に同一産業に属している企業は同様の市場機会やリスクに直面しています。そのためMSCIのESG格付けでは、各産業ごとに重要である課題を選定し、それを評価の対象とします。その課題は「キーイシュー」と呼ばれ、各産業ごとに6〜10個のキーイシューが決められています。以下の図は現在MSCIによって設定されている全てのキーイシューです。
次に、各キーイシューのウェイトが産業ごとに設定されます。ウェイト付けは、各キーイシューの影響度と時間軸の組み合わせによって計算され、規制や技術革新等の外部要因を考慮して決められています。例えば、IT産業ではプライバシー&データ・セキュリティというキーイシューのウェイトが高く、鉱山産業では安全衛生スコアのウェイトが高い、というように各産業の特徴によって設定されます。
キーイシューの評価
MSCIは企業がESGリスクを適切に管理できているか評価するために、リスクにどのくらいさらされているかを測るリスク・エクスポージャーとリスク管理の二つの軸で測定します。リスク・エクスポージャーが高ければ、そのリスクを管理するのに高いリスク管理能力が必要になります。従って、リスク・エクスポージャーの度合いによって必要となるリスク管理能力が異なります。
リスク・エクスポージャーとリスク管理から導かれたキーイシュー・スコアは、先ほどのウェイトを元に計算され、「AAA」(最高)から「CCC」(最低)の7段階にランク付けされます。
MSCI等の格付け機関が行なった企業のESGに関するデータ・分析・評価は、Yahoo Finance等の投資情報サイトや機関投資家などに提供され、投資判断の材料となります。
分析の際、MSCIは主に以下の情報源から情報を収集します。
- 政府、学術団体、NGO等によるマクロデータや地理的データ
- 企業の開示情報
- 1,600社以上のメディア
企業への影響
MSCI等の格付け機関は、企業がグリーンボンド(グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券)やソーシャルボンド(世界的な社会問題の解決にあてる目的で資金を調達する債券)を発行する際に、格付けやセカンドオピニオンを行っています。スターバックスがサステナビリティ債を発行した際にも、セカンドオピニオンを行っています。ESGに企業が取り組むことは、信用格付けに影響を与えるだけでなく、グリーンボンドやソーシャルボンドによる調達の可能性も広がります。