2019
02.08

ペイパルを成長させたスピンオフの仕組みとは?

コーポレートファイナンス

企業の一部を切り離し独立させることで、企業価値向上を目指すスピンオフ。平成29年度の税制改正により、スピンオフに関しての税制が変わり、国としても中長期的な企業価値向上を促進しています。

今回の記事では、スピンオフによる効果と事例を紹介します。

 

スピンオフとその効果

スピンオフとは、自社内の特定の事業部門や子会社を切り出し、独立させることを言います。自社内の事業部門や子会社を独立させることによって、元の会社と独立された会社の双方の企業価値向上が期待されます。

スピンオフによる企業価値の向上の効果は主に以下の3つに見られます。

「経営」

スピンオフによって元の会社と新会社の経営が独立します。経営が独立することの利点として、元の会社の経営者が中核企業に専念することが挙げられます。また、スピンオフされた会社は、迅速で柔軟な意思決定が可能になります。加えて会社の規模が小さくなり、一人一人の責任が大きくなることで、経営者や従業員のモチベーションの向上にも繋がります。

「資本」

資本が独立することによって、スピンオフされた会社は元の会社とは別に独自の資金調達が可能となります。その結果、従来埋没していた必要な投資が実施できるようになります。また、第3者の出資者視点から考えると、一方の会社のみを対象として出資ができるようになるのでより容易に投資することができます。スピンオフ以前では他の事業の影響によって連動してしまっていた株式報酬も、互いに独立することでその会社の株式の価値に合った株式報酬の導入が可能になります。他にも、スピンオフ実施前は競合相手だった会社と取引ができるようになったり、企業結合とスピンオフを併せて活用することで、独禁法の規制に制約されにくくなります。

「上場」

切り離された事業は元会社とは別に上場します。それにより、その事業のみに関心のある投資家を引きつけることが可能になります。また、コングロマリット・ディスカウント(複数の事業を個別で営むよりまとめて営む時の方が事業価値の総和が市場で低く評価されること)を克服できます。

 

スピンオフ例①(デュポン)

アメリカの大手化学系企業のデュポン社は2015年に自社の一部の事業(高機能化学事業)をスピンオフしました。スピンオフした高機能化学事業は新企業、ケマーズ社として独立しました。デュポン社は研究開発を軸とした最先端化学事業と今回スピンオフされた高機能化学事業を取り扱っていました。高機能化学事業は市場の状況に左右されやすい成熟商品を扱っており、最先端化学事業と事業特性が大きく異なります。特性が違う二つの事業を別会社にしたことで、それぞれの事業に適した投資家を引きつけることが可能になりました。

スピンオフ例②(イーベイ)

アメリカの大手ネットオークション企業のイーベイは、子会社にWeb決済事業を営むペイパルを所有していました。ペイパル自体は成長が見込まれる有望な事業でしたが、イーベイの傘下に留まると取引先が限定されてしまい、成長が制限されてしまうと予想されました。また、売却という手段もありましたが、アマゾン等の競合他社に買収された場合、最終的にイーベイの競争力低下に繋がる恐れがありました。これらの理由からスピンオフをした結果、イーベイとペイパル両社の株式価値が上昇しました。