05.03
債券におけるESG投資、企業に求められているものとは。(第二回)
国内外問わず、債券の評価にESG要素を取り入れる動きが拡大しています。今回は債券の格付けにおけるESG要素の考慮の必要性について考えます。
格付けにおけるESG要素の必要性
2017年に、日本の代表的な格付け機関である日本格付研究所(JCR)は企業の信用格付けに際して、ESG要素を考慮することを宣言するPRI格付声明 (Statement on ESG in Credit Ratings)に署名しました。JCRは今までもESGに関連する事項を取り入れていましたが、今回の署名を機に改めてどのような事項が格付けに影響するかを説明しました。そして格付けにおいてESG要素を考慮する必要性として以下の3点を挙げています。
①持続可能性への影響
ESG要素は債務者の事業継続性と関連性が高いため、ESGに関する評価は債務者の信用力を格付けする上で軽視できなくなっています。企業経営には様々なリスクが伴うため、そのリスク管理の点でもESG要素は企業の持続可能性に関連しています。
②キャッシュフロー創出力への影響
格付けにおいて、債務返済原資となるキャッシュフローを評価することが重要です。JCRではESGの各要素について以下のように整理しています。
Environment
キャッシュインの面では環境への配慮を重視する消費者が増えていることを踏まえ、環境に配慮した製品やサービスの有無に着目します。キャッシュアウトの面では環境対応のコスト負担の大きさを確認します。製造業などの生産工程において排出物に関して環境的配慮が求められ、厳しい規制の影響を受けることも多くなっています。
Social
企業は株主、取引先、消費者、従業員など様々ステークホルダーとの関係で成り立っています。企業の円滑な事業展開においてそれらの関係を適切に維持する必要があります。特に近年は人手不足が顕著となるほか、労働環境の改善に関する動きが社会全体で強くなっているため、これらの取り組みが企業の競争力を左右します。
Governance
企業の持続的な成長のためには、意思決定の透明性やコンプライアンスの徹底が重要だと考えています。そのような仕組みづくりによる的確な経営判断が将来のキャッシュフローをもたらすと考えられます。また、子会社の不祥事によるキャッシュアウトを抑制できます。
③資金調達力への影響
企業が継続的に事業を展開するためには円滑な資金調達が必要で有り、格付上も資金調達力は重要な評価項目です。近年、投資家が投資判断を下すにあたり、ESG要素の重要性が増しているため、ESG要素への取り組みが資金調達力にも影響を及ぼします。
格付け機関と企業の現状
日本では、JCRの他にも格付投資情報センター (R&I)がPRI格付声明 (Statement on ESG in Credit Ratings)に署名しています。格付け機関が債券の評価にESG要素を取り入れている中、多くの日本企業はESG関連情報の開示が充分に行えていないという例があります。そのため、JCRなどの格付け機関は対話を通じてより詳細な情報を入手する意向を示しています。