12.29
アディダスが実施!ナイキの「搾取工場 (sweatshop)」問題に学ぶサプライチェーン管理の重要性
サプライチェーンの人権問題や労働安全性の問題がSNSを通じて拡散され、売上や株価に大きな影響を及ぼすことがあります。
1990年代に有名スポーツ用品ブランドのナイキは、ベトナム製造委託先の工場で現地基準の177倍の有害ガスにさらされていることや、途上国の工場で児童労働や低賃金・長時間労働が行われていることが発覚し、その労働環境がNGOなどから激しく非難されました。ナイキは当初、生産をサプライヤーに委託しているという理由から自社の責任範囲外であり、サプライヤー側の問題であるとして対応しない方針を示しました。しかし、そういった態度が火に油を注ぐこととなり、株主総会での反搾取工場決議の提起や学生団体からの搾取工場による商品の販売差し止め請求、NGOから全米やカナダ、ヨーロッパにまで広まった不買運動が起きてしまい、売上と共に株価も下げる結果となりました。
ESG投資の投資先選定に「ネガティブ・スクリーニング」という手法があります。それは、ESG投資を行う際の投資先を選ぶにあたり「ESGの観点で問題のある企業を投資先から外す」という手法です。仮にナイキが未だに「搾取工場(sweatshop)」問題を抱えている場合には、ナイキは投資対象から外されてしまうのです。それはつまり、サプライチェーンであっても人権問題などを抱えている場合には、機関投資家等から投資を受けられなくなる可能性があると言えます。
以上のようなリスクを抑えるため、企業はサプライチェーンにおける人権・労働問題に取り組んでいるのです。
アディダスのサプライチェーン管理の取組
ナイキのライバル企業であるスポーツ用品ブランドのアディダスは、サプライチェーンの管理を徹底し、積極的開示をしています。特徴的なのはサプライヤーのリストを公開していることです。その範囲は、1次サプライヤーだけにとどまらず、ライセンス商品を生産するサプライヤーまでをも公開しています。
また、サプライチェーン管理では、サプライヤーの能力向上と監査が繰り返し行われています。サプライヤー自身のみの努力では限界もあると考え、サプライヤー向けに以下のようなサスティナビリティの研修プログラムを用意しています。
- 職場基準に関して学ぶ基礎研修
- 労働、健康、安全などの特定の問題に関するとレーニンに関して学ぶパフォーマンス研修
- KPIや評価ツール、サスティナブルコンプライアンス
このようなプログラムを外部の専門性のある非営利団体とのパートナーシップにより行なっています。アディダスは情報共有のプラットフォームを構築し、トレーニングのイニシアチブに力を注いでいます。
そして、監査の結果に基づいてサプライヤーをランク付けします。例えば、KPIを用いた評価では、6つの項目で評価されます。
- マネジメントに対する取組姿勢
- マネジメントシステムの質
- コミュニケーション
- 行われたトレーニング
- 透明なレポーティング
- コンプライアンス活動の測定
「1C(最悪)」 から「5C(最良)」までの5段階に分類されます。アディダスの目標は“2020年までに少なくとも80%のサプライヤーや4Cに分類されるようになる”ことです。そして、その監査を通じて改善努力をし、全くアクションを起こさないサプライヤーには“警告レター”を送って改善を促し、それでも改善しない場合は、アディダスとの商業的関係を終了します。
サプライヤーの品質向上&統一を通じた生産性の向上
このサプライチェーン管理をアディダス自身が行うのは、評判リスクと販売リスクの軽減だけなく、商品の価格競争につながります。一般的に企業はサプライチェーンの研修に自らの研修プログラムを作りません。しかし、自社のサプライヤーの研修プログラムをアディダスのガバナンス下に入れることで、品質と基準の向上と統一化を図っているのです。サプライヤーを自分たちが意図するように研修するということで品質の向上と統一化が行われます。
その結果、サプライヤーを品質と価格の2軸で比較していたことが、品質を統一化することで研修費用などは仕入れる商品の値段に含まれなくなり、より低い費用で生産できるかという生産性を追求することができます。アディダスのサプライチェーン管理は、品質を高く保ち生産性を高めることにつながります。