2018
12.26

高過ぎる役員報酬はサスティナビリティに影響をするのか。

ESG投資

短期での利益やリターンの奨励は、所得格差を広げることに繋がります。
どのようにすれば長期的な利益追求となりこの問題を解決することにつながるのでしょうか。
国連のサポートによりサスティナブル投資(持続可能性な社会の構築に貢献するかどうかの視点による投資)を推進する団体“THE PRI”では、投資家が所得格差に対応できる方策と必要性について提唱されております。その内容を深く読み解いていくと、企業と投資家のエンゲージメント(対話)を行い、双方に果たすべき役割があります。
提言の中でPRI(責任投資原則)に署名する機関投資家に対する指針を示しました。前提として所得格差が広がることは、その投資分野でのリスクを変え、有用な投資機会を反転させてしまう可能性があります。
それは金融・社会インフラを不安定にし、長期的な投資のパフォーマンスに負の影響を及ぼすことに繋がります。そのようなことから投資家に対して以下のような投資判断基準を提唱しております。

  1. 従業員との関係性と労働市場の構造
  2. 法人税に対する方針と行為
  3. CEOの報酬レベル

それぞれについて企業と投資家は何ができ、どのように関わるべきなのでしょうか。

従業員との関係性と労働市場の構造

従業員との関係性と労働市場の構造は企業のバリュエーション(企業価値)に影響を及ぼします。しかし、企業と従業員の関係性は数値化ができず、その効果も同様です。そのため、その良好な関係から生まれる好業績は、アナリストレポートにも反映されずに資本市場ではサプライズとして捉えられます。同様に、従業員との関係が良くない場合に起こるリスクも数値化しにくいです。
加えて多国籍企業の場合には、発展途上国における価格競争を激化させ、過酷な労働環境を作り出していることはあります。発展途上国、その国で働く人々は、選択肢が限られてしまい提示されて所得条件を受け入れるしかない状況です。ですから、発展途上国のみでそのような状況を変えることが困難になります。
このような課題に対して企業が取り組むべきはデータの収集です。労働者情報開示の推進などデータ収集を企業が努力し、投資家はそのサポートをする。また、労働力の公正な取り扱いの厳守と執行については、企業と投資家との間で期待を一致させる必要があります。具体的には、生産性、品質、評判高め、社会の安定を強化する労働力に適切なコストコントロールと責任のバランスを保つことを投資家は歓迎することで極端な利益追求をすることを避けます。そして、公共政策については重要な労働市場のデータを開示する政策を支援することです。

法人税に対する方針と行為

企業の法人税の支払いに関して企業と投資家は2つの全く反対の思いがあります。
一方では、企業が納める法人税を低く抑えることができれば、それは企業の利益となり、再投資への資金、投資家へのリターン(還元)の向上へとつながります。しかし、その一方で、企業が納める法人税が低くなれば国の税収が減り、それによって国の赤字国債の発行やそれにより公的サービスの悪化につながり、社会・経済の持続性にネガティブな影響を及ぼします。
まず、企業は税金を払う責任があることを明確にし、その政策、実務について投資家へ開示をする必要があります。提言の中では、納税もCSRの一部と捉えています。また、投資家は、企業の税金を納めるための政策、実務において必要なデータの構築を支援し、企業内でどのようにそのデータが処理されたかを明確に開示できる体制をサポートする必要があります。

CEOの報酬レベル

株主は企業経営を経営者に依頼するので、株主と経営者には、依頼をする側、依頼を受ける側の立ち位置になり、その間には利害の不一致が生じてしまいます。そのことはエージェンシーコストとと言われ、情報の非対称を解消するための情報の開示もそのコストの中に含まれます。
近年、株主の利益を経営者の利益を一致させるインセンティブ構造を作ることで、エージェンシーコストを軽減するとされておりました。その考えによって生まれたのが、経営者へのストックオプションの付与や、株価連動型の役員報酬体系です。
しかし、これらは短期的な利益追求や、株価の下降リスクを軽視する動きに繋がるリスクを含んでおります。長期的視点において企業は、CEOと従業員の比率を含めたデータの収集に務め、株主だけでなく他のステークスホールダーとの利益に結びついた報酬のインセンティブを組み入れた代替え手段の開発が必要です。